芸能界、政界、官界と、さしずめセクハラ祭りの様相を呈している昨今だが、男を何十年もやっていると、なにがしかの戸惑いを感じる諸兄も多いかと思う。
恐らくは、
- そもそも一体どこからがセクハラなのか?
- 女だって悪いでしょ、ハニートラップでしょ
- 何がセクハラなのか明示されていないのに、「セクハラするな」といわれても…
- 昔はセクハラとは言われてなかったことまでも、強引にセクハラにされている気がする
- 昔の行為・言動を、今の価値観で裁くのはどうかと
- 「#MeToo」運動とか、イタいよね。特に日本人がやると→野党
- あんまりセクハラセクハラ言ってると、男女の文化が死んじゃうよ
といったようなことだと思うが、今回から数回に分けて、「こう考えればスッキリする」というのを書いてみよう。
「ハラスメント=相手が嫌がること」という大前提
まずは、異性とのコミュニケーションの中で、何がセクハラで、何がセクハラでないか。
セクハラとは、直訳すると「性的嫌がらせ」であり、要するに、性的な内容で相手が嫌がることをしたり言ったりすることである。ここまでは常識であるが、では、どこまでが「セクハラ」か。それは、繰り返しになるが、「性的な内容で相手が嫌がること」であり、その全てである、ということである。
「harassment」をケンブリッジ英英辞典で引くと、
behaviour that annoys or upsets someone
とあり、さらに、「annoy」は、
to make someone angry
「誰かを怒らせること」、「upset」は、
to make someone worried, unhappy, or angry
「誰かを悩ませたり、不幸にさせたり、怒らせること」、となる。つまり、結果としてそのようになるような振る舞いが「harassment」というわけだ。
あなたの行為や言葉で、相手が、怒ったり、悩んだり、不幸になってしまったらアウトなので、定義上、それがハラスメントかどうか決めるのは、あくまでも相手側である、ということが大前提となる。もっと言うと、今あなたが感じたそのイヤな予感の通り、あなたがどういう意図でそれを行ったか、言ったかは、関係がない。
人権概念の拡大に伴う問題を孕んではいるが…「相手が嫌がることはしない」
もっとも、相手は、本当は、怒っても、悩んでも、不幸にもなっていないのに、あなたを貶めたい意図でもって、「それはセクハラだ」と言ってくる場合は想定できるだろう。また、相手が少々怒ったり、悩んだり、不幸になったとしても、本人にとってもそれがゼロに等しいダメージで、大して問題にならないこともある。誤解を恐れずに言えば、「ツッコミ」と同じで、そこから却ってコミュニケーションが開ける場合すらあるのだ。
こう書くといわゆる「リベラル派」からケチが付き、書かなければ書かなかったで「保守派」からイチャモンが飛んでくるので困ったものだが、この辺りについては、人権概念の拡大に伴う一般的な問題を孕んでいて、ただの感情的な罵り合いで済ませてはいけない部分なので、のちの稿で触れようと思う。
が、しかし、いずれにせよ、だ。「相手が嫌がることはしない」という、ごく当然の意識がないのではそもそもお話にならないのは、どんな場合でも一緒なので、そこのところはきちんと押さえておきたい。
相手によって、何がセクハラかは変わる
では、もうちょっと細かく見ていこう。
といっても、女性心理がうんたらかんたら、という話ではない。念のため。あくまで物事の構造を俯瞰するというのが、私のスタイルである。
人目につかないところで、中堅会社員であるあなたが、ある女性社員に、
と言ったとする。
その女性社員があなたの上役だった場合、どう思うだろうか。多くの場合、下手なお世辞と受け取られて終わりだろうが、もしかすると、多少気を良くしていろいろ情報をくれるかもしれない。場合によっては、パッと顔を赤らめることすらないとは言えない。
では、入ったばかりの新入社員だったらどう思うか。「なにこのオッサン」と思われるのは当然として、恐怖すら覚えることもあるだろう。こうなれば、それはもう立派なセクハラである。
権力関係とセクハラの関係性
お気づきの通り、この反応の違いは、あなたがその女性社員にとって「権力者」であるかどうかによってもたらされる。
女性の上役は、仮にあなたの発言が不快なのであれば、上司として注意を、場合によっては懲戒を与えることができる。彼女は、あなたもそれを分かっていると思っているから、わざわざリスクを冒してまでそんな発言はすまい、と考える。とすると、あなたの発言は一体何なのか、冗談や戯言の類に違いない、と彼女は推測するため、あなたの発言は軽く見積もられる。よって、あなたの発言が問題化することは、まずもって無いのだ(もちろんゼロではない)。
ところが、女性新入社員の場合はそうは行かない。あなたは権力者であってノーリスクだから、上役のときのようなロジックが彼女の中で働くことはない。そのため、上役の場合と較べて、あなたの発言は戯言ではなく、立派な性的アプローチである、と捉えられる可能性が、飛躍的に高まる。もちろん実際に彼女がそれを不快に感じるかどうかは個々の状況にもよるが、ここでは権力関係とセクハラとの間に、明確な相間関係が存在することをご理解いただきたい。
性犯罪があるからこそ、「危険」と認識される
さらに言えば、「キレイですね」に続くあなたが取り得るあらゆる行為・発言を想定し、それを自らの身に迫った「危険」と認識する可能性すらある。繰り返すが、あなたが権力者であるがゆえに、だ。
もちろん、たかが「キレイですね」という発言から、余りにも大きな飛躍があると、あなたは思うだろう。しかし、現にその手の発言から始まった性犯罪があり、また、それをもとにした創作物などが多く出回っており、彼女がそう思うのは無理からぬことである。あなたがセクハラ認定されたとして、恨むべきは彼女ではなく、前例を作った性犯罪者であり、性犯罪の準備と思しき行動をとって彼女を不用意に怖がらせた、あなた自身なのである。
いずれにせよ、あなたとその女性社員との間の権力関係によって、こんなにも大きく結果が違ってくるのだ。
現実の例に当てはめてみると…
現在世間を騒がせている、いくつかのセクハラ問題。これも全て権力関係から説明することが可能だ。
福田財務省事務次官の件にしろ、山口メンバーの件にしろ、加害者の方が立場が上だったからこそ起きた事件だ。
立場が逆だった時を想像してほしい。
福田財務省事務次官の場合
音声の録音時、福田氏は酔っていたそうだから、その「ベテラン」女性記者にしてみれば、「酔うとこうなっちゃう人なんだな」と思うだけである。彼に対して「女性差別主義者」と思うかもしれないが、立場が上であるゆえ、危機を感じることは無い。
もちろん彼女はその権力を駆使してそれを世間に公表してもいい。その場合世間はどう思うか。確かに「セクハラ男」、さらには「バカ」とはいわれるだろうが、「セクハラ」問題とは認識されないだろう。それだけに、麻生財務大臣の任命責任の方に話題が集中するかもしれない。
余談であるが、実は私は音声編集を長年やってきているが、あの録音をYouTubeで聞いた限りでは、半分ほどは福田氏の声とは言い難い。やはり未編集のものを公開するべきであると思う。
山口メンバーの場合
こちらの場合、事件そのものが起こることはないであろう。相手は山口メンバーより立場が上だから、自らの芸能人生の与奪の件を握っているからである。
より正確に言うと、これは逆だ。山口メンバーにとって立場が上の人間とは、自らの芸能人生の与奪の件を握る人物のことをいうのである。
万が一、山口メンバーがキスを迫ったとしよう。普通に大人同士のロマンスに転化するか、さもなくば刑事事件に発展するのみであろう。ここでも世間では、「セクハラ」という扱われ方はしない。
セクハラを防ぐためには…
以上で見てきたように、基本的にセクハラというのは、立場が上の者から下の者へ行われる行為である。つまり、パワハラの一形態なのだ。
細かく言えば、下の者から上の者へアプローチされる性的表現は、冗談、戯言、おべっか、本気の求愛、場合によっては、その者が単なるバカである、というような認識のされ方をする。もちろん、文字通りのセクハラである場合もあろう。しかし、それならそれで権力を行使して処分すれば済む話だから、そうなったらもう誰が見ても「そいつがバカ」という問題なのである。
では、セクハラを防ぐにはどうしたら良いか。それは、パワハラを防げばよいのである。
「相手が嫌がることはしない」というシンプルな大原則を、強者に徹底させる、そのための制度設計をしなければならない。被害者を出さないために、「加害者をつくらない」という観点で、徹底的にやる方がいい。
もちろん私は、これを自戒を込めて書いている。
次回は、「ハニートラップ」論について書こうと思う。
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